米国債の利回り差に変化が
米国債の10年物と2年物の利回り差が急速に縮まっています。
手元にある2011年1月3日からの終値の推移をグラフにするとつぎのようになりました。
確かに10年物と2年物の利回りの間隔が狭くなっています。
近年では[1]2016年7月6日米国債10年物1.3682%、2016年7月5日米国債2年物0.55から第1の上昇トレンドが始まり、[2]2017年9月7日米国債10年物2.05%、2017年9月8日米国債2年物1.26から第2の上昇トレンドが始まっています。
第1の上昇トレンドの前月には英国のEU離脱が決定しています。これによるリスク回避の動きが債券買いにつながり一時的な利回りの低下を呼びました。
第2の上昇トレンドの前月には北朝鮮の核ミサイル開発に伴い米朝間の緊張が高まりました。これによるリスク回避の動きが債券買いにつながり一時的な利回りの低下を呼びました。
つまり2回の緊張を乗り越え、債券市場は確実にリスク選好の度合いを高めてきたわけです。
急速に縮む利回り差
10年物と2年物の利回り差を見ると
その差は急速に縮まっています。2018年8月24日金曜日には18.96bp(ベーシスポイント:1bp=0.01%)を記録しました。
利回り差縮小の意味
本来であれば短期利回りよりも長期利回りのほうが高いものです。その差が縮まるとはどういうことでしょう。
一般に米国債2年物は金融政策に反応しやすいといわれています。
日本時間2018年8月23日未明に発表された直近のFOMC議事録からは9月の利上げが濃厚であることが判明しています。
大半の会合参加者が、堅調な景気拡大を背景に「利上げが間もなく適切になる」と指摘し、9月25、26日のFOMCでの追加利上げ決定を示唆した。
出典:共同通信社
なるほど2年物の上昇に納得です。
しかし2年物に比べ10年物の伸びが鈍いのはなぜでしょう。2018年4月25日には3%を突破しましたが5月24日以降小康状態を保っています。
債券市場の参加者は将来の金利上昇に確信を持てないようです。
米中間の貿易戦争。英国のブレグジット(EU離脱問題)。かつては同盟国であったトルコの離反。米国とイランの高まる緊張。そしてくすぶる北朝鮮の核ミサイル問題。不安定要素を数え上げたら切りがありません。これらの諸問題が先行きを不透明にしています。
長短金利差の縮小はリセッションのサイン?
Bloombergによると
ニューヨーク時間28日午前8時(日本時間同日午後9時)ごろに、”yield curve” の検索が急増した。
(中略)
長短利回り格差は2007年以来の最小へ向かっており、逆イールドはリセッション(景気後退)の前兆とされることから一般の人からも注目を集めたようだ。
引用中「逆イールド」とは短期から長期へと各金利を配置してできるイールドカーブ(利回り曲線)が右下がりになることです。一方「順イールド」は右上がりとなり、これが一般的とされます。
一方、ロイターは、4ヵ月ほど前の記事で
2年債と10年債の利回りスプレッドは金融危機以降で最小になっている。さらに長期債利回りが短期債より低くなる「逆イールド」の可能性が浮上し、景気後退懸念が広がってきた。
としながらも
ただしその出現時期があまりに早く、ほとんど役立たないこともある。例えば1998年6月に逆イールドが起きたが、景気後退に突入したのは3年近く後だった。逆イールドを受けて株式から資金を引き揚げた面々は、その後株価がピークを付けるまでの36%の上昇で、もうける機会をみすみす逃したことになる。
と軽々な反応を慎むよう警告しています。
2007年に何があった?
米国債10年物と2年物の利回り差が36.18bpまで縮小した2018年6月15日のロイターの記事によると
長短スプレッドが36bp台まで低下するのは、2007年8月27日以来、10年10カ月ぶり。当時はサブプライム問題が表面化した時期で、同月には仏BNPパリバ(BNPP.PA)が傘下の3ミューチュアル・ファンドの解約を凍結し、いわゆる「パリバショック」が発生した。
直近の金利差は先述のとおり18.96bpです。現在の状況がいかに切迫したものであるかがわかります。
またウィキペディアによると
2017年7月9日 – 日経平均1万8261.98円(ITバブル後最高値)
2017年8月9日 – サブプライムローン問題がクローズアップされる。
2017年10月9日 – NYダウ史上最高値1万4164.53ドル。
2017年10月 – 日本の経済では、暫定的にこの月が景気(第14循環)の山とされている。
2018年12月 – アメリカ経済は、景気循環上ではこの月に景気の山を迎えている。出典:ウィキペディア
そして翌2008年9月のリーマンショックへと景気は崩れ落ちていきました。
利回り差の再転換が景気後退のサインか?
奇妙なことに、景気が絶好調であった2007年6月に利回り差に大きな変化があらわれていました
最近の長期債利回りの急ピッチな上昇を受けて、今年に入ってから、ほぼ恒常的に、2年国債の利回り、つまり、短期金利が長期の10年国債の利回りを上回るという、いわゆる長短逆転の逆イールドカーブ(利回り曲線)の状態も、今月初めから、長期債の利回りが短期債よりも高いノーマルなイールドカーブに変わり始めている。
つまりサブプリム問題の顕在化は、市場参加者が景気拡大に自信を持ち初めた時期に起きた霹靂だったのです。
もしかしたら本格的な景気後退は逆イールドカーブに陥った後、正常に戻ったところで起こるのかもしれません。
「天災は忘れたころにやってくる」――しばらくは長短国債の利回りから目が離せないようです。
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