株式相場の格言に「Sell in May(セルインメイ)=5月に売れ」というものがあります。英語であることから、もちろん欧米の株式相場での言葉ですが、日本の株式市場が前夜の米国市場に大きく影響されることから他人事では済ませられないというのが実情です。
そもそもなぜ「5月に売れ」なのか? これは例年4月15日に締め切られる米国の確定申告の還付金を原資とした株式投資が盛んになることや、ヘッジファンドが四半期決算から逆算して45日前にポジションを解消するルールなどにより、5月に株式相場が盛り上がる、あるいはピークアウトするという説を根拠としています。
一方で「株は秋に買え」とも、よく言われます。たくさんの方がその期日を「10月末」としています。こちらの根拠は「ハロウィン・アノマリー」と言われますが、その詳細についてはまったく不明です。
ヘッジファンドの45日前ルールを念頭に置けば、年度決算期日を控えた11月15日のほうがよいような気がしますが。
さて、とはいえ、そこにアノマリーがあるのなら検証する価値がある。そこで一つの設問を考えてみました。
設問
秋(9月から11月)に高値づかみしてしまった株は5月にプラスで売り抜けられるか
もちろん個別の銘柄によって事情は異なりますが、ここでは相場がリスクオンにあるのか、リスクオフにあるかでその成否を判断したいと思います。
2012年のセルインメイ
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
前年の10月28日に日経平均株価は終値9050.47円で秋の高値をつけています。5月1日に目を向けると終値9350.95円で3%ほどのプラスで引けています。つまりリスクオンで売り抜けることができた。
しかし厳密により高い利幅を得るならば11月半ば以降の訪れる秋の底値相場で買い、3月末に売るのが正解でした。
またGWの谷間の5月1日に売り抜けられなければ、セルインメイは失敗に終わっていました。翌営業日には窓を開けての下落となり、そのままずるずると秋の高値を大きく下回る水準にまで落ち込んでいます。
米国で発表された雇用統計が期待外れなものであり、ギリシャの財政再建をめぐる総選挙で混迷が懸念されたことが理由です。
薄氷のセルインメイでした。
2013年のセルインメイ
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
前年の9月19日に日経平均株価は終値9232.21円で秋の高値をつけています。5月1日に目を向けると終値13799.35円で49%もプラスになりました。つまり楽勝のリスクオンで売り抜けることができた。
さらに5月22日までホールドしておけばさらに69%まで高値を狙うことができました。
じつは2013年は式年遷宮の「金座」の初年に当たる年でした。
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また日米の金融緩和策が順調に市場の安心感を広げていました。
ただしほぼ一本調子の上げ相場は5月23日に暗転します。中国の5月のHSBC製造業PMIが49.6と7ヵ月ぶりに50を下回ったことで、一気に利益確定の波が訪れました。
セルインメイの格言を守らず買いに動いていたら、あるいは大きく損をしていたかもしれません。
ただいずれにしろ安泰のセルインメイでした。
2014年のセルインメイ
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
前年の9月26日に日経平均株価は終値14799.12円で秋の高値をつけています。5月1日に目を向けると終値14485.13円で若干のマイナスです。つまりリスクオフに突入してしまいました。
前年末までは順調だった株価は、年明けから中国の経済成長率の鈍化懸念が高まり、そんなさなかの米国のQE縮小懸念、さらに新興国市場への不安が重なり、大きく崩れます。またウクライナの政情不安が追い打ちをかけました。
結果的に4月3日の終値15071.88円が最後の売りチャンスでしたが、これを的中させるのは至難の業でしょう。
また5月中の相場を眺めればV字回復を見せていますが、ほぼ焼け石に水です。
当てが外れたセルインメイでした。これまでの成績は2勝1敗です。
2015年のセルインメイ
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
前年の11月14日に日経平均株価は終値17490.83円で秋の高値をつけています。5月1日に目を向けると終値19531.63円で12%のプラスです。つまり楽勝のリスクオンで売り抜けることができた。
ただし5月前半は直近の底値圏にあり、より大きな利幅を狙うならば5月いっぱいはホールドが正しかったようです。ただしこれも後からわかったこと。10%以上の利益を得られているのであれば十分といえるでしょう。
安泰のセルインメイでした。これまでの成績は3勝1敗です。
2016年のセルインメイ
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
前年の11月26日に日経平均株価は終値19944.41円で秋の高値をつけています。5月1日に目を向けると終値16147.30円で19%のマイナスです。つまり大きくリスクオフの環境になってしまった。
5月に入り上昇トレンドとなりますが、挽回するには遠く及びません。
直近4月22日に終値17572.49円の高値をつけていますが、それでも大きなマイナスです。
2015年の年明けは中国の製造業PMIの不調に始まった上海株安とイラン・サウジアラビア間の国交断然による原油安が株式相場をかく乱します。原油安はエネルギー関連企業の業績を悪化させるとの懸念を生み、融資先を比較的多く抱えるドイツ銀行の信用不安へと発展しました。
その後遺症が5月まで尾を引いたかたちです。
惨敗のセルインメイ。これまでの成績は3勝2敗です。
2017年のセルインメイ
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
前年の11月25日に日経平均株価は終値18381.22円で秋の高値をつけています。5月1日に目を向けると終値19310.52円で5%のプラスです。つまり若干のリスクオンで売り抜けることができた。
5月全般で見るとさらに高値圏へと推移しています。
前年11月にトランプ政権が誕生すると規制緩和の期待から株価は急上昇しましたが、年が明けて小康状態となります。米FOMCが利上げに踏み切ったことからいったんガス抜きされ、米国債の金利は低下。それが円高を引き寄せ、日経平均株価は下降トレンドを見せます。
そこに北朝鮮のミサイル発射などが加わり、大きく崩れるかと思われましたが、フランス大統領選で極右候補の当選が阻止される見込みとなり市場のムードはV字回復します。
危機一髪で救われたセルインメイ。2012年からこれまで6年間の成績は4勝2敗です。
設問の答えは
さてここでいったん設問の答えを出しておきましょう。
設問は「秋(9月から11月)に高値づかみしてしまった株は5月にプラスで売り抜けられるか」というものでした。結果は6年間で4勝2敗。6割7分の勝率です。ただし2012年は間一髪での売り抜けであり、数日遅れれば勝敗は3勝3敗の5分となるところでした。
よってこの設問の答えは
[st-midasibox title=”ここがポイント” fontawesome=”fa-bullhorn” bordercolor=”#000000″ color=”#ffffff” bgcolor=”#faebd7″ borderwidth=”3″ borderradius=”0″ titleweight=”bold”]2012年からの6年間でセルインメイは必ずしも成功するわけではなかった[/st-midasibox]
とします。
セルインメイは本当か? そうとは限らないようです。
2018年のセルインメイは?
出典:[日経平均株価]日経平均プロフィル アーカイブ 作図:トレマト
では2018年のセルインメイを占ってみましょう。
前年の11月7日に日経平均株価は終値22937.6円で秋の高値をつけています。直近の春の高値は3月13日の終値21968.1円で4%のマイナスです。
原因はなんといっても2月初旬に発生した米国債リスクによる急落です。当ブログはつぎの記事で三番底を懸念していましたが、やはり避けることはできませんでした。
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4月3日現在、米中は高率関税の掛け合いで完全に“貿易戦争”に突入しています。当ブログは米共和党有力議員の介入で中国を狙った高関税措置は回避されると読んでいましたが、まったく外れてしまいました。意見の対立する側近をつぎつぎ排除していったことから、もはや基盤となる政党とも距離を置く姿勢と見受けられます。ロシア、中国、そして米国の3大国の首脳が独裁化の道をつき進んでいます。
米朝首脳会談は5月末までに開催される見込みですが、それによって米中関係が改善される道筋は見通せません。
北朝鮮リスクが取り除かれたところで、世界の政治リスクの土俵が米対中、欧米対ロシアへと移行したいま、その成功を市場はすでに織り込み済みと言えるでしょう。
ポイントは米中がそれぞれ振り上げた拳をどうやって下ろすか。米朝首脳会談までに収拾の見通しがつけば株価は5月中に大きく上がると期待できます。
しかし一方で拳を下ろすきっかけをつかめず事態はさらに悪化する恐れもあります。
取り巻きがイエスマンばかりとなってしまったトランプに酔眼のサポートは期待できません。
トレマトは、今年のセルインメイは失敗と読んでいます。
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