一般に5月は夏日が観測されるようになり猛暑を連想させるため、株式市場では夏を先取りする動きがあるとされています。
本当にそうでしょうか。
サマーストック(猛暑関連)銘柄といわれるものから、いくつかをピックアップし確かめてみました。
検証はまず毎月1日の終値を前月1日の終値と比較し、月間の騰落率を割り出します。たとえば5月分は6月1日の終値が5月1日の終値と比べどれだけ変化したかを見ます。
2012年4月分から2019年3月分まで7年間のデータを取り、各月ごとの騰落の平均値を算出。これを比較することで月ごとの変化の特徴を捉えます。
株価は「Y!ファイナンス」を参考にしました。騰落率の計算はトレマトによるものです。
飲料メーカーのキリンは5月に下げる
キリンは12月決算です。第4四半期(期末)の決算短信は通常2月の中旬に発表されます。上の図を見ると2月が平均5.6%で12ヵ月中最も高い上昇率を示しています。これはキリンの経営方針が概ね投資家から支持され続けてきたことによるものでしょう。事実2012年4月1日の終値1022円は2019年4月1日2539円まで上昇しています。
一方、猛暑連想から期待される5月の平均騰落率はマイナス2.9%となっています。5月はこの7年間で3回、5%以上下落しました。
むしろ注目すべきは4月です。平均3.64%で、期末決算の発表される2月に次いで高い上昇率となっています。上昇率が5%を超えたのは3回で、そのうち2回は10%超えとなっています。
4月は新年度スタートの月であり、歓迎会や懇親会などでビールの消費が増えるのかもしれません。その反動は5月から梅雨の6月、7月にまで及び、8月になりようやく息を吹き返すといった図が思い浮かびます。
キリンの場合、猛暑連想の上昇は当てはまらないようです。
アイスクリームチェーンのサーティワンも5月に下げる
サーティワンも前述のキリン同様12月決算です。第4四半期(期末)の決算短信は通常2月の上旬に発表されます。こちらも2月の平均上昇率は4.85%で12ヵ月中最大となっています。2012年4月1日の終値3270円が、2019年4月1日には4020円となっています。一時は大幅に値上がりしたこともありましたが、いまはやや落ち着いた状態です。とはいえ概ね上昇していることに変わりなく、2月の平均値が高いのは投資家の信認と見られ納得できます。
しかし猛暑連想から期待される5月の平均騰落率はマイナス4.29%と12ヵ月中最低を記録しています。5%を超える下落が3回あり、そのうち1回は10%を超える下落です。
キリン同様2月、3月、4月とプラスが続きますが、5月、6月、7月は低調です。8月になりようやく息を吹き返すのも似ています。
理由はわかりませんが、猛暑連想の5月の上昇は当てはまらないようです。
エアコンメーカーのダイキンも5月に下げる
ダイキンは3月決算です。第4四半期(期末)の決算短信は通常5月の上旬に発表されます。2012年4月1日の終値は2124円でしたが、2019年4月1日には1万3120円にまで上昇しています。じつに6倍以上です。本来ならば経営への信認が5月の株価となって反映されるべきですが、なぜか5月の平均騰落率はマイナスです。
12ヵ月中の株価上昇は秋シーズンの9月5.55%、10月9.25%が最大であり、次いで春の始まる2月3.66%と4月5.17%に見られます。
秋シーズンは長引く残暑と型落ち製品の値下げから需要が増えると予想できます。春シーズンの上昇は花粉症対策としてのエアコン需要を反映したものでしょうか。
いずれにしろ、ダイキンにも猛暑連想の5月の上昇は当てはまらないようです。
ただし逆張りの発想でいくと6月以降12月までの平均騰落率はプラスで推移しているため、5月の下落タイミングで先取りしておくという手もありそうです。
5月ではなく4月にサマーストック銘柄が動く?
これまで飲料メーカーのキリン、アイスクリームチェーンのサーティワン、エアコンメーカーのダイキンの3社を見てきました。
いずれも5月の平均騰落率はマイナスでした。
しかし2月と4月は上昇しています。
2月に本決算の決算短信が発表される2社の特異性を排除すれば、4月が残ります。
もしかしたら「サマーストック銘柄は4月に動く」のかもしれません。
特異月を特定できないサマーストック銘柄
念のため、ほかの業種のサマーストック銘柄も調べてみました。
UV化粧品メーカーの花王
UV化粧品メーカーの花王の場合、5月に目立った動きは見られません。4月も比較的、低調といえるでしょう。
日焼けやシミの原因となる紫外線B波は「5月から8月がピーク(出典:日本ロレアル)」とされます。しかし平均騰落率は10月から2月の上昇率が目立ちます。
花王の株価の場合、UV化粧品の貢献度はさほど高くはないと思われます。
喫茶チェーンのドトール
喫茶チェーンのドトールの場合、注目の5月はマイナスです。4月はさらに悪い成績です。上昇率のワンツーはいわゆる「ニッパチ」の2月、8月。営業日数がほかの月に比べ少ない2月と8月が喫茶チェーンのドトールにとって高評価の月となるのは、どうしてなのでしょう。
ドトールの決算月は2月です。第3四半期の決算短信は1月中旬に発表されます。しかし1月の卑近騰落率はマイナスです。決算の影響は少ないと見られます。
現在のところ要因は不明ですが、動くのは5月、4月ではないことは確かです。
クルーズビズ紳士服チェーンのAOKI
クールビズ紳士服チェーンのAOKIの場合、5月はマイナスです。4月も目立ってよいとはいえません。クールビズの需要増が株価にストレートに反映されていると見られるのは8月です。次いで2月3月は就職シーズンの4月を控え好成績となっています。また秋の衣替えを控えた9月、10月も悪くありません。
以上3社の場合、5月にも4月にも捉われず、それぞれの業種ならではと予想される時期に株価の変動があります。
まとめ:サマーストック銘柄は5月に動く、とは言えない
これまで猛暑需要が期待される業界の代表的な企業を検証してわかったことは「サマーストック銘柄が5月に動く」というアノマリーはほぼ成立しないということです。
個別の銘柄の事情によって騰落の動きが現れるので、上記の手法によって、注目する銘柄をチェックしてみることをおすすめします。
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